U社山梨県商業施設
変わりゆく世相
大手GMSチェーンからご依頼をうけた地域密着型大型ショッピングモールの大規模リニューアル。
ここは雄大な富士山を拝める風光明媚な盆地である。
しかしそれがゆえの囲まれたエリア内で、地域密着型店舗同士が激しくしのぎを削り合っている。
コロナパンデミック以降、次々に変わりゆく世界に翻弄される形で、物販店は需要の急激な変化への対応を強いられている。
地元に根付いたローカルスーパーなどに比べて、大型ショッピングモールは柔軟な変容が取りにくいことは容易に想像がつく。
施設概要
構造 | 鉄骨ALC造 一部RC造 |
---|---|
規模 | 地下1階~地上4階(本体棟)
地上2階(別棟) |
延床面積 | 67,638.05㎡(本体棟)
15,026.06㎡(別棟) |
竣工 | 2021年 用途変更 |
バリアフリーとインクルーシブデザイン
大規模建築物での「インクルーシブデザイン」という言葉を耳にするようになってきた。
平成6年に高齢者や障害者の自立と積極的な社会参加を促す目的でハートビル法が制定、平成18年に今のバリアフリー新法として改正施行され、私たち建築士は「バリアフリーデザイン」を合言葉に建築設計を行ってきた。
その後「ユニバーサルデザイン」へ考え方が昇華したが、今度は健常者が弱者の設備まで自分本位に使いだしてしまった。そこで出てきたのが、あらゆる人それぞれの立場に立って、
意見を取り入れて創っていく「インクルーシブデザイン」だ。
この大型モールには授乳室が複数ある。バリアフリー法に基づく各自治体条例には差があるものの、授乳室の詳細な施設基準を定めていく動きがある。そこで今回の改装に当たり、私たちは2種類の授乳室を考えた。
ひとつは「閉じた授乳室」、もう一つは「開いた授乳室」だ。
両方ともママだけでなく、パパ、爺や婆や、色んなファミリーが入ってくることを想定し、みんなから意見を聞いたインクルーシブな空間だ。もちろん私たちは「設計BIM」を用いてみんなが分かり易い設計提案も行っている。
「開いた授乳室」は中央を衝撃吸収床とし、大人たちがそれを囲み談笑しながら中央で遊ぶ乳児たちを見守る。公園の砂場のイメージだ。授乳ブースは鍵こそ無いものの二重のカーテンで仕切られ、中はホテルラウンジのように上質なソファ空間が広がる。
「閉じた授乳室」「開いた授乳室」いずれも動線や視線をコントロールしてあるので、様々な人が混在しても覗きなどの心配もなく、育児で大変なママやパパ、ファミリーがほっとできる新たな空間の提案だ。
世代混在と価値基準の移り変わり
コロナパンデミックから3年、世界はそれまで以上に大きく変遷してきた。
エネルギー大国に翻弄されながら戦争を片目に消費を続ける人々、それを追いかける新しい消耗品が猛烈なスピードで次々と生まれてはあっという間に消えていく。
私たちはコロナウィルスによって「生きる」ということを嫌というほど意識させられている。
それなのに消費し続ける(消耗し続ける)ことへ人類はどうアプローチしていくのか。
そしてあと3年もすると2025年を迎える。いわゆる「2025年問題」の始まりだ。
たくさんの問題が指摘されているが、私たちは一つずつ丁寧に向き合っていかねばならない。